幻魔大戦

りんたろうはナカグロ入りで

レンタルが150円だったので、20年ぶりくらいに観てみました。


言わずと知れた平井和正原作、りんたろう監督による、角川アニメ第1弾。
両者のファンでもなかった僕が、公開当時、劇場に駆けつけたのは「大友克洋がアニメのキャラクターデザインに初挑戦」という理由のただ一点からでした。『さよならにっぽん』『気分はもう戦争』といった作品に出会い、色んな意味で当時「クール!」の一言だった大友克洋に夢中でいた頃です。ところが、その時に観た感想はといえば「これはひどい」の一言。お話や作画がどうこう言う前に「あんまり似てない不安定な大友キャラモドキが愛の力を説いちゃってる」違和感がどうにも気持ち悪くて仕方がなかったのです。
そして大友ファンであるが故に『幻魔大戦』は極私的な封印作品となったのでした。


で、20年ぶりに観た感想。思ったよりはひどくない。思ったよりは当時(よりはちょっと前?)の大友キャラしてるし、思ったよりは「愛の力云々」にも我慢できます。
いやまぁ、確かにあちこちひどいんだけど「これはひどい」を20年熟成させた印象よりは、ちゃんと見られる作品でした。


さて、この20年の間にマニアックな友人との出会いや仕事を経て、中途半端にアニメスタッフに詳しい作画オタクになってしまった僕の関心は、当然ビジュアル面に集中します。
もちろん当時も「砂山に突き刺さっていく鉄パイプ」や「火炎竜と化した溶岩」等のイメージには、作品の出来を越えて素直に圧倒されたものですが、今回再見しても、全く変わらない驚きを感じてしまった事に、また驚きです。


なかむらたかしの担当シーンは、新宿とニューヨーク。彼女にフられてやさぐれていた東丈が、ベガに追われて逃げまどい、超能力が覚醒するまでと、ニューヨークでソニー率いるストリートギャングと警官隊が撃ち合うあたりです。
動きももちろん素晴らしいんだけど、大友デザインの表現という点でも文句なしで、後に『迷宮物語』『AKIRA』といった大友作品を手がける事になるのも大いに納得。そういえば『未来警察ウラシマン』のキャラクターデザインも、そことなく大友テイストで好きだったなぁ。


金田伊功が担当したクライマックスの火炎竜との戦いは、何というかもう、視覚神経を飛び越えて脳の快感中枢に直接働きかけてくるような感じですね。クレジットされた通りの、正に「スペシャルアニメーション」。火炎竜となって猛然と襲いかかるかと思えば、一瞬にして崩れ落ちる変幻自在の溶岩流。その周りをはばたき乱舞する無数の火炎コウモリの群れ。迎え撃つ8人のサイオニクス戦士たちのダイナミックなアクションと、いちいち決まりまくったポーズは、笑いたくなるほどのカッコ良さです。
ここぞとばかりに(2度も)鳴りまくるキース・エマーソンの音楽と相まった、クライマックスにふさわしい圧倒的な迫力と高揚感には、それまでのグダグダな物語も笑って帳消しにしたくなります。


まぁ、非常にうまくごまかされてしまった感じがしないでもありませんが、ローズマリー・バトラーによる主題歌「わちゅーれんのーだーらーい」が流れ出す頃には、すっかり「あぁ何かいいもの観たなぁ」という気分に。ともかく「ひょっとしたら記憶が美化されているかも」といった心配は、全くの危惧に終わりました。
「何かとんでもなく凄い映像を見たい」という人に、このシーンは今でも自信をもってお薦めできます。


あぁ、でもやっぱり、動物をぞろぞろ引き連れて山道を行く東丈の、あまりにメルヘンチックな姿(とメロドラマ調の甘ったるい劇伴)にだけは、どうにも我慢がならないのでした。