アメリカン・ギャングスター

オカンとボクと、時々、マッポ


ゴッドファーザー』を筆頭に『スカーフェイス』『ニュー・ジャック・シティ』『セルピコ』『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』『フレンチ・コネクション』『グッドフェローズ』『ヒート』『アンタッチャブル』『プリンス・オブ・シティ』『L.A.コンフィデンシャル』……ざっと思いつく限りのこの手の作品を片っぱしから足していき、その総数で割ったような作品。
2時間半、退屈する事無く楽しめるものの、先行作品を超える瞬間はなかなか訪れない。


リッチで洗練されていて、ファミリーの絆を重んじる悪のカリスマVS粗野で融通のきかない、私生活の荒んだ馬鹿正直の刑事という図式。
知恵と度胸で麻薬密売ビジネスを切り拓き、暗黒街でのし上がっていく痛快ピカレスク譚。
賄賂が横行する腐敗しきった警察の中で正義を貫き通す、誇り高き戦い。
その狭間で道を踏み外し、破滅していく人々の群像劇。


手垢にまみれた旧作群のイメージを片っぱしから踏襲してみせる事で、リドリー・スコット監督は逆にジャンルから距離を置こうとしているのだろうか。と分かったような分からないような口を利いてみたり……。
鬱陶しい映像処理を排して70年代のルックスの再現に徹した撮影は素晴らしいが、それが逆にリドリーらしさを希薄なものにしていたり……。
物語にベトナム戦争を中心とした当時の世相が大きく影を落としている点が、新味といえば新味なんだけれど……。
とにかく先行作品にくらべて押しが弱いというか、あくが無いというか、お行儀がいいというか……。


そんなどうにも3点リーダーな煮え切らない状況から脱して、本作がついにその独自性を発揮し始めるのは、それらのイメージを全て消化した後の終盤に入ってからだ。
セールス・ポイントとなっている『バーチュオシティ』以来の「対決」を経たデンゼル・ワシントンラッセル・クロウは、観客の意表を衝く新たな関係を結び、俄然輝き始める。
特にデンゼル! それまでの腐った魚のような目から一転、まさに水を得た魚のようなノリノリの演技を披露する姿に「なるほど、これがやりたかったのね」と深く納得。


「時間も無いんで、そろそろ巻きで」と言わんばかりの畳み掛けるようなバタバタした編集も、それはそれでスピード感があっていいんだけど、やっぱりこの終盤はもうちょっとじっくり見せてもらいたいところ。それでこそ最後の脱力するようなトボけたオチも、いっそう輝きを増すってもんでしょ。


大幅にシーンが追加されるというDVDのディレクターズ・カット版は、エピソードの選択と編集次第で、更なる傑作になりそうな予感。
野球選手の道からドロップ・アウトしたデンゼルの甥っ子や、一癖も二癖もありそうな雰囲気を漂わせる「だけ」に終わってしまったラッセルの仲間達の描写あたりを期待したい。


役作りなのか単なる不摂生なのか判断に迷う樽体型のラッセルもイカしてましたが、悪徳刑事を演じるジョシュ・ブローリンの小規模な威圧感にシビレましたよ。