ダニー・ザ・ドッグ

今日のわんこ

凶暴だけど、イノセント。例によってリュック・ベッソンが推定1時間で書き飛ばしたと思われる脚本の、毎度おなじみのモチーフが、ジェット・リーから新たな魅力を引き出す事に(だけ)成功している、奇跡の傑作。


子供の頃に極悪高利貸しに拾われ、全身殺し屋として犬のように育てられた男が、盲目のピアノ調律師に出会った事から、人間性を取り戻していく…という物語に、リアリティは一片のかけらもありません(断言)。


でも、過剰に甘くて残酷な、まるでお伽話のような世界だからこそ、ジェット・リーのわんちゃん演技が輝いて見えるのです。そう、ここでのジェット・リーは、もう、ただただ子犬のように愛くるしい。非道い飼い主に虐待されつつも忠誠を誓う姿に涙し、新しい飼い主に優しくされて喜ぶ姿に微笑む。鼻を鳴らし、しっぽをぶんぶん振り回している様が目に浮かぶような好演です。


そんなキャラクターを的確に体現してみせたアクション演出は、ユエン・ウーピン御大によるもの。
設定上、これまでのジェット映画のような、芸術的マーシャルアーツを駆使して華麗に大活躍、という場面はありません。気性が荒いだけの子犬が闇雲に噛みつきまくっているような、泥臭いアクションは、ともすれば「ぬるい」と言えなくもなく、マニアの評価が分かれるところでしょう。
すれっからしのアクション映画ファンを自認する僕の場合、ファイト・シーンで「お願い、もう戦わないでっ!」と乙女ちっくに願わずにはいられなかったくらいなので(笑)、無問題。


新旧飼い主を演じたモーガン・フリーマンボブ・ホスキンスも滋味に富んだ流石の演技を見せてくれるのですが、どんな名優も動物には勝てません。まさにわんこに喰われた結果になりましたね(上手い事をいったつもり)。
アクション映画ではなく、アイドル映画、いや、まさに動物映画として、強力にオススメします。



せっかくだから、デッドストックもお蔵出し。
公開当時に書いたもの。