SPL 狼よ静かに死ね

香港黒社会を一手に仕切る、武闘派にして家庭派のボス。超法規特捜班を率いて組織に挑む、野獣刑事。2人の長きに渡る死闘は、第三の男の登場によって、一気に戦慄の結末へと向かう。


「バイオレンス・オペラの誕生」という公開時の素晴らしく仰々しい惹句に、一切の偽りなしの傑作である。
愛嬌と恐怖を同等に振りまく「ボス」サモ・ハンの圧倒的な存在感。養女と部下の身を案じつつも、破滅に向かって突き進む事しかできない「刑事」サイモン・ヤムの歪んだヒロイズム。
そして何といっても「第三の男」熱血新任警部のドニー・イェンが素晴らしい。役者としても、アクション監督としても、ここ数年で本作がベストの仕事ではないだろうか。


男たちの意地と怒りが臨界点を突破した末に繰り広げられる終盤のアクションシーンは、どれも鮮烈にして強烈だ。
ドニーと黒社会の刺客ウー・ジンによる特殊警棒vs短ドス戦は、観客の動体視力の限界に挑むかのような超高速バトル。メイキング映像を見ると、早回し無し、振り付けも無しのぶっつけ本番なのが分かる。本物2人の本気の一戦には、爽快感を通り越して、恐怖すら覚えるほどだ。
『マッハ!』への対抗意識を剥き出しにした、サモとドニーによる最終対決は、まさにバーリ・トゥード。功夫の手技足技の応酬から、関節を取り合ってステージを転げ回り、豪快なプロレス風の大技合戦に至るまで、文字通り戦いの満漢全席。
そんな死闘の末に迎える決着の、まぁ凄まじい事。どうぞあなた自身の目でご覧なさい、お確かめなさい。びっくりしますよ(淀長調)。


全編に渡って、銀残し調の寒々しく、くすんだ色調の画面で展開されるのは、ただひたすらに陰惨で殺伐としたドラマ。だが、そこにふと挿入される砂浜のシーンだけは、夢か幻のように美しい。
どこまでも果てしなく広がる、青い空と海。その光景を前にして、所在なげに佇んでいる、黒いスーツ姿の男たち。
エンドクレジットが流れる中、またそっと挿入されるワンカットが、去っていった男たちへの挽歌のように思われて、どうにも胸が締めつけられるのだった。