時をかける少女

紺野真琴第一回主演作品

時をかける少女 限定版 [DVD]
とにかくヒロインが素晴らしいのである。
細田守監督が言うところの「アホの子」(笑)である本作の主人公・紺野真琴は、全編に渡って時空間を駆けめぐる。あまり深く考えずに、とにかく全力で走る!
飛ぶ! 食べる! 泣く! 笑う! 歌う! だらける! 転げ回る!


そう、今回の「時をかける少女」は、とびっきりアクティブなコメディエンヌ。無計画に、欲望のおもむくままにタイムリープ能力を使いまくる中盤は、大いに笑わせてくれる。
なされるがままに運命に翻弄される、ノスタルジックな「はかない美少女」だった歴代「時かけ」のイメージとは対照的だ(その「はかない美少女」芳山和子が、本作では真琴の叔母として成長した姿、トリックスター的な役割で登場するのも、重要なポイントのひとつ)。
もちろん、楽しいばかりで物語が終わるはずはなく、真琴は能力を使った結果、その代償に直面していく事になるのだが、バイタリティ溢れる彼女らしさは、最後まで失われる事はない。


シンプルで美しく伸びやかなフォルムのデザインが、ハイレベルな作画で生き生きと動く様は、とても新鮮で魅力的。
声優初挑戦という仲里依紗の初々しくひたむきな演技(高山みなみ似?)も見事にはまっていて、何だか本当に新しいアイドル誕生の瞬間を目撃しているような、わくわくした幸福な気分になってくるのだ。
意図したものしか画面に映し出される事のないアニメーションという表現方法で、これだけキャラクターのナチュラルな存在感を演出して魅せてくれる細田監督の力量には、改めて感嘆するばかりである。


想像だが、細田監督は本作のアプローチのひとつとして、いわゆるアイドル映画のシミュレーションを試みたのではないだろうか。
演技に期待できないアイドルを銀幕で輝かせる手っ取り早い方法といえば、とりあえず何でも一生懸命やらせる事、全力でぶつからせる事に限る。
真琴というキャラクターに対する細田監督の想いは、そんなアイドルを見守る(そして、恋する)監督の心境に近いものがあったのではないか。
奇跡のように素晴らしい、クライマックスの泣き顔と走る姿のカットを思うと、どうにもそんな考えが浮かんできて仕方がないのだ。


時をかける少女』は傑作である。
脚本、演出、作画、美術、音響、音楽など、語るべき魅力はあまりに多いのだが、まずは「紺野真琴第一回主演作品」というアイドル映画として最高! と個人的に断言してしまおう。
「青春映画の名作」と誉れ高い大林宣彦監督の『時をかける少女』が、何よりもまず「原田知世第一回主演作品」というアイドル映画として最高だったように。


それはもう、第二回、三回、と紺野真琴主演作品が作られていったらいいのになあ、と妄想してしまうくらい、僕は完璧に彼女の魅力にヤラレましたよ、ええ。
DVD特典で、大林版「時かけ」エンディングのように、時空を超えて主題歌を歌う真琴の新作映像を作ってくれないかなあ、とか(笑)。