ハッスル&フロウ

メンフィスの負け犬

ハッスル&フロウ [DVD]
勝ち組か負け組か問われたら、自信満々、でも涙目で「負け組でーす!」と吠えまくるような俺なので、負け犬が再起を誓って絶望的な戦いに挑むような映画は大好物だ。


俺はメンフィス生まれヒップホップ育ち ダメそうな奴はだいたい友達
気がつきゃしがないポン引き稼業 死んでるように生きている


そんな「イタリアの種馬」ならぬ「メンフィスの負け犬」こと三十男のDジェイが、ふとしたきっかけ(カシオトーン!)から「プロ・ラッパーに、俺はなる!」という忘れかけていた夢を取り戻し、苦闘する様を描く本作、まさにヒップホップ版『ロッキー』とでも呼べそうな、負け犬のリベンジ魂あふれる1本だ。


ラッパーの立身出世物語の類は『8Mile』を筆頭に色々と制作されているが、本作にはワルだった頃のシノギのテクニックだの、ステージでのライヴ・パフォーマンスだの、成功してからのゴージャスな暮らしだのといった派手な定番の見せ場は何も無い。
では何があるかというと、自宅の一室を改造した狭苦しく貧乏くさいスタジオでの、ひたすら地味なレコーディング作業なんだけど、トラックがしだいに形になっていく様がディテール豊かに描かれていて、ヒップホップ好きや宅録マニアでなくともワクワクさせられてしまうはずだ。


テレンス・ハワードが『クラッシュ』でのインテリでハイソなTVディレクターとは対照的な、無神経で強引だけど憎めない、ちょいとジャイアン入ってるDジェイを好演していて、抜群に良い。アカデミー主題歌賞を受賞してしまった吹替え無しのラップの腕前といい、この芸達者ぶりは今後も要注目だ。


Dジェイを助ける仲間達も良い。ハードボイルドな絆で結ばれた娼婦、元娼婦で現妊婦の恋人、会議専門のしがない録音技師に、自販機修理屋のキーボーディスト。実生活ではしがない負け組の面々が、Dジェイのデモテープ制作を通じて次第に生きる自信を取り戻していく様には、胸が熱くなる。コーラスで参加した恋人が、完成したトラックを聴いて涙ぐむシーンには、もらい泣き必至。


地元出身で大ブレイクを果たした有名ラッパーにデモテープを手渡すべく、Dジェイは凱旋パーティーが開かれているクラブへと向かう。
基本的にまったりとしたムードはここから一転、予測不能のサスペンスとバイオレンスに満ちた不穏な空間へと突入する。
正直、観ている間は唐突にすぎる気もしたんだが、終わってみれば、なるほどギャングスタ・ラッパーの皆さんが吹聴する武勇伝の数々はこうして生まれるんだろうな、とすんなり腑に落ちたので、俺的にはノー・プロブレム。


Dジェイが手にするのは、果たして成功か失敗か? 勝ち組のあんたも負け組のおまえも、ラストで彼が浮かべる不敵な笑みにヤラれまくりなYO!(ヒップホップ風に締めてみました)