学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD

ハイスクールはゾンビテリア


「巨人・大鵬・卵焼き」。かつての高度経済成長期を象徴する言葉としてしばし引き合いに出される男の子の三大好物だが、時代は流れ、そして変わった。
今どきの男の子の三大好物といえば、何といっても「死人・鉄砲・あまっ子達」(苦しい)。かわいい女の子を守るため、ゾンビどもを撃つべし打つべし討つべし!
そんな殺伐・即物的な夢と欲望がたっぷり詰まった、ありそうで意外と無かった本格ゾンビ漫画が話題を呼んでいる。
と言うと「ロメロ原理主義」の方達に本格ゾンビとは何かを色々とお説教されそうな気もするが、これほど『ゾンビ』らしいゾンビ漫画がヒットしている事実は素直に喜びたいところ。


1978年製作、ジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』は、凄惨なスプラッターあり豪快なアクションあり緊迫した人間ドラマあり優れた現代文明批評あり、そのずば抜けた完成度の高さでホラー映画をネクストレベルに押し上げた傑作である事は改めて言うまでもない。その影響はホラー映画の枠に留まらず、今も小説にゲームにと無数の亜流作品を生み出し続けている。
特にここ日本では『バイオハザード』シリーズの大成功以降、ゾンビもお茶の間の人気者として完全に市民権を得たと言えよう。


先に「『ゾンビ』らしい」と書いたが、『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』のアッパーで疾走感あふれる作風は、基本的にダウナーな『ゾンビ』よりは、2005年のリメイク作品『ドーン・オブ・ザ・デッド』のそれに近い(ゾンビは走らないが)。
「ある朝目覚めると世界は終わっていた」というアバンタイトルがあまりに秀逸だった『ドーン〜』だが、本作もまた「授業をフケて屋上にいたら世界が終わっていた」という素晴らしい導入部から始まる。理由を考えている暇なんか無い。気がつけば校内にゾンビが溢れかえっているのだ。


何せ開巻いきなりゾンビに襲われている主人公と友人の名前からして、小室孝と井豪永である。
大人が子供を突然殺しはじめる不条理SFの古典的名作『ススムちゃん大ショック』を描いた永井豪
怪物化する死人と人類との闘いを三代にわたる年代記として綴った『ワースト』の小室孝太郎
『ゾンビ』以前に『ゾンビ』らしい状況を描いていた先人漫画家へのさり気ない?リスペクトっぷりを見ても、このジャンルに対する作者の並みならぬ思い入れのほどがうかがえる。
コンビニ店員の傍らにクリケットのラケットが置かれているひとコマを見て、どれだけの読者が元ネタの映画に気づく事やら。


とは言え、そんなマニアックに過ぎるくすぐりの数々に気付かなくても全く支障は無い。
お約束とリアリズムと御都合主義のさじ加減が絶妙なストーリー展開、達者なデッサン・流麗なペンタッチの作画から受ける印象はあくまでライト。「ロメロ原理主義」の方達には物足りなくても、男の子の幼稚な夢と欲望が炸裂する様を気楽に楽しむ分には、とても正しい少年漫画のかたちではないだろうか。熱血と屈折がほど良い塩梅の主人公然り。登場する女の子の乳尻太ももが揃って過剰にまぶしい点も、また然り。


さて、1巻のラストで主人公のグループはゾンビで溢れかえる学園を早くも脱出、パニック真っただ中のさらに混沌とした外界へと舞台は移っていく。
ハッピーエンドのあり得ないこの世界で、「ロメロ原理主義」と少年漫画のバランスをどう取り、物語の落とし所をどこに持っていくのか?
これからの展開にも大いに期待したいところDEATH。


そして本作のヒットでゾンビ漫画ムーブメントのようなものがちょっとでも巻き起こったりなんかしたら楽しいだろうなあ。
「ロメロ原理主義」者も納得、仁木ひろしの未完の傑作『高速弾で脳を撃て!』が単行本化されたりなんかしたら、本当に嬉しいだろうなあ。
学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 1 (角川コミックス ドラゴンJr. 104-1)学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 2 (角川コミックス ドラゴンJr. 104-2)