ストレンヂア 無皇刃譚

あいにく本日、漂泊者


戦乱の世。天涯孤独の少年・仔太郎は、ある理不尽な運命から逃れるべく、愛犬・飛丸と旅を続けていた。彼を追うのは、大陸から渡ってきた金髪碧眼の剣士・羅狼が率いる凶悪な武装集団。仔太郎はふとした成りゆきから危機を救われた浪人を用心棒に雇う。彼は陰惨な過去の記憶から己の名前を捨て、刀を封じていた…。


時代劇といえばチャンバラであるが、本作の活劇志向はとにかく半端ではない。
全編にちりばめられた荒々しく猛々しい殺陣の数々は、豊富な対決のシチュエーション、超人的な体術と多彩な業物に彩られていて、とにかく飽きさせない。日本の時代劇と香港・中国の武侠片が巧みにミックスされたスタイルは、リアリズムとファンタジーのバランスも絶妙で、観ている間息が止まること必至。
殊に希代の武闘派アニメーター中村豊が手掛けるラストの対決シーンは、手描きアニメのみが表現しうるアクションの極限とも言うべき凄まじさで、果たして今後、これ以上の剣戟シーンを拝めるのか心配になってくるほどだ。


そんなエクストリームな活劇を支えるストーリーは、驚くほどシンプルでストイック。
各キャラクターの背景も、それぞれが交わって織り成すドラマも、必要最小限以下の描写にとどめられている。
山ほど出てくる「死にざま」には、何の意味も感傷も与えられない。
国のため金のため地位のため女のため。もっともらしい理由をつけて戦いに赴く者のことごとくが、1人残らず皆死んでゆく。人は死ぬ時に、死ぬ。ただそれだけだといわんばかりに、その描写は無情にして無常。
「生きたい」「守りたい」「強い奴と戦いたい」。
純粋な行動原理を持つ主役3人の「生きざま」のみが、これ見よがしでない言葉と芝居によって、丁寧に的確に綴られていく。


物語の前半、名無しと羅狼が初めて立ち回りを演じる場面がある。
ただ己より強い男と戦う事だけを切望して止まない羅狼は、街道で偶然にすれ違った名無しの力を見抜き、いきなり勝負を挑む。戦いはあくまで剣を抜こうとしない名無しが防戦の一方だったが、横やりが入ったため勝負はお預けとなる。
去っていく羅狼の背中を見つめながら、名無しは大きく息を吐き、さらにもう一度大きなため息をつく。解放される緊張感と、確かめられる安堵。殺陣の凄まじさに身を強ばらせていた観客もまた名無しに同調して大きくため息をつきながら、生を実感し確認する。
さり気ないが、本当に素晴らしい演出だと思う。


宣伝ではいちばんの売りになっている「声優初挑戦!」の長瀬智也も健闘。
もともとアニメ向きな声質だとは思っていたけれど、若々しくも無駄な力みの無い好演で、重い過去を背負いつつも飄々と生きている浪人という役どころに無理なくはまっている。
少々の拙さを感じる場面があったとしても、観終わってみれば長瀬以外の名無しは考えられないはずだ。


時をかける少女』もそうだったが、こういう成功例は多々あるのでタレントの声優起用も否定はしない。
作品的にも興行的にも非道で外道で素頓狂な『ザ・シンプソンズ MOVIE』は、もちろん完全否定だけど。


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