ドラえもん のび太の恐竜2006

注意。ネタバレ多数。


驚異の予告編に度肝を抜かれ、前売り券を即ゲットしてから数ヶ月。ネットではオリジナルと比較して色々と賛否両論が飛び交っている様子の問題作?を、やっと観る事ができました。


いやもう、素直に良かったです。素晴らしい!
ギニャーッ!(興奮のあまり、藤子不二雄A風に)


理屈で考えれば何かと粗の多いお話ではあります。
終始「暖かい目」でのび太を見守ろうとする為に、ドラえもんの存在感が希薄に感じられる事とか。
ラス前の悪役との対決場面が未整理で、例えばタイムパトロールの役割が曖昧である事とか。
アメリカから日本へ、のび太たちが道具なし、タイムパトロールの助けなしでたどり着いてしまう展開も、「そうしたい」という彼らの気持ちは分かるものの、やはり唐突な感じは否めません。
旅の過程を描くと、中盤のロードムービー風に綴られるスケッチ(テーマ曲のインスト・アレンジと相まって、ここはとてもいい感じ)の繰り返しになる事もまたよく分かるので、悩ましい限りなのですが。


まだまだ先代と比較されがちな声優陣は、どうして好演じゃないですか。特にTV放映開始の頃から飛躍的な成長を遂げている木村昴の堂々たるジャイアンっぷりと、船越栄一郎のこれまた堂に入った悪役っぷりは、万人の認めるところでは?
ピー助は……ねぇ(苦笑)。いや、ちっちゃなピー助は、悪くはなかったんじゃないかしら(弱気)。


それやこれやの不満も、ラスト、必然的に訪れるのび太とピー助の別れのシーンを見ると、些細でつまらないものに思えてしまいます。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃ状態ののび太が、ふっと笑顔になる瞬間の絶妙な演出には、やられちゃいましたね。もう、僕が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになる番ですよ(笑)。


理屈ではなくエモーション優先の脚本・演出が、明らかに揺るぎない信念のもとになされている事は明白です。オリジナルからの改変についての賛否両論は多いですが、要は、スタッフのこの信念に、良くも悪くも反応しての事ではないでしょうか。
僕は、原作リスペクトの精神も、新しい「ドラえもん」を創ろうという心意気も、十二分に感じ取る事ができました。


お子様に限らず、大の大人にも自信をもってオススメですっ!
パンフにスタンプも押したどー!
ドーン!(興奮のあまり、藤子不二雄A風に)

以下、作画についての話題。


さて、予告編で何よりも驚かされたのが、それまでの映画とは明らかに異質のスタイルを持った作画だった訳ですが、正直、高をくくっているところもありましたよ。
ありがちな話で、すごいカットは予告でもう出つくしてるんじゃねーの、とか。
いくら何でも全編、あの作画じゃないだろう、とか。


……全編、あの作画でした(笑)。もう100分通して、全く気が抜けません。「ここ描いた人は誰なんだろう?」と、観ながら考えてしまうのは作画マニアの悪い性癖ですが、今回そんな不粋な真似は早々に放棄、ただただ映像に身を任せておりました。


とにかく原画マンの筆遣いがダイレクトに伝わってくるような、キャラクターのざわっとした描線が、まずは素晴らしい。瞳なんかアップになると、ベタではなく、マジックでグルグル塗ったような感じなんだもん。そんなざわっとした描線、ざわっとした動きで、藤子キャラがリアルな芝居をしまくっているのです!


この、ミスマッチにすら感じられる過剰なスタイル、ざわっとした感覚は、やはり『ホーホケキョ となりの山田くん』を観た時のそれに近いですね。同作の作画監督でもあった小西賢一入魂の作監修正が、おそらく全編にわたって施されているのでしょう。「山田くん」は『おもひでぽろぽろ』と並んで本当に大っ嫌いな映画なんですが(笑)、純粋に作画だけ目当てで見返したくなっちゃいましたよ。


のび太の部屋に姿を現し、強烈な威圧感を振りまく黒マスクの男、Tレックスから赤ちゃん恐竜を守ろうとする時の、妙に艶めかしいしずかちゃん、ラストでピー助を振り切って、こけつまろびつ走り続けるのび太が、僕的なキャラ作画のクライマックスですね。


タケコプターでの飛行シーンも、圧巻です。のび太たちと一緒に風を切って「飛んでいる」ような錯覚すら覚える爽快感。電池が切れそうなタケコプターで、だましだまし飛んでいる時の心細さ。渓谷で翼竜の大群に襲われる、スリルとサスペンス。劇場の大画面で体感する大空の広さ、高さは、この種の描写では第一人者の宮崎駿を超えたね、と言い切ってしまいたくなるほどの快感に満ち溢れています。


全編に渡ってフィーチャーされた恐竜も、もちろん大きな見所。多種多彩な恐竜が、キャラクター以上に個性的な作画で描写されています。
湖でのTレックスとアラモサウルスの戦闘シーン等は、個性的にもほどがあるだろ、と思わないでもありませんが(笑)、他にもとんでもない迫力の作画が目白押しです。ここらへんの手加減の無さが、逆に「作画崩壊」なんて受け取られていたりするのは、ツラいですね。


旧作の恐竜描写と比較して感じられるのは、やはり『ジュラシック・パーク』シリーズの影響の大きさでしょう。そういえば先に挙げたシーンを描いたらしい森久司は、劇場版『デジモンアドベンチャー』でも『ジュラシック・パーク』そっくりのカットを描いていましたね。


ところで「トコトコ☆おさんぽドラ」って、独り身の三十男でも、もらえちゃうのね。